キャリア監査

30代で年収を上げる転職と下げる転職は何が違うのか

転職で年収が上がるか下がるかは、業界の相場・職種の希少性・社内の等級・交渉のうちどれを動かしたかで決まります。4つに分解したうえで、求人票の提示年収の読み方と、いまの年収が相場より高いか低いかを測る手順まで扱います。

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この記事の前提

想定読者
転職で年収を上げたいが、何が年収を決めているのかを整理できていない30代の会社員
読了後の状態
年収が動く要因を分解して、自分の場合はどこを動かせるのかを判断できる状態
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求人票の年収欄は、下限と上限の幅で書かれています。その幅のどこに自分が置かれるのかは書かれておらず、聞いても「ご経験次第です」としか返ってきません。この状態のまま応募先を絞ろうとすると、提示レンジの上限が高い順に候補が並び、業界も職種もばらばらの一覧ができ上がります。

こうなるのは、年収が何で決まっているのかを分けられていないからです。提示される金額は、採用側が応募者個人を値踏みして出した数字ではなく、いくつかの条件が積み上がった結果です。どの段を動かすかで、上がる幅も、効いてくるまでの時間も、失敗したときの戻り方も変わります。

この記事では年収を「業界の相場・職種の希少性・社内の等級・交渉」の4つに分けて扱います。個社の年収額や職種別の平均値は出さず、自分の位置を自分で測る手順を書きます。

年収は4つの層が積み上がってできている

一番下にあるのが業界の相場です。事業がどれだけ利益を出し、そのうちいくらを人件費に回せるかで決まります。同じ経理の仕事でも業界をまたぐと金額が変わるのは、能力が違うからではなく、原資が違うからです。この層は、中にいる個人が努力して押し上げられるものではありません。

その上に職種の希少性が乗ります。採用側が必要とする数に対して、その業務をこなせる人が何人いるかという需給です。ここは年単位で動かせますが、動かし方は「難しいことを覚える」より「組み合わせを作る」に近く、単独のスキルの強さより業務経験の重なり方で決まります。

3つ目が社内の等級です。同じ会社の同じ職種でも、等級が違えば金額が違います。等級は評価と在籍年数の両方で動き、多くの場合は上の枠に空きがないと上がりません。

一番上が交渉です。動くのは決まった枠の中での位置だけで、枠そのものを越える提示は出てきません。

業界の相場 職種の希少性 社内の等級 交渉
何で決まるか 事業の利益構造と、人件費に回せる原資 採用側の必要度に対する、こなせる人の数 等級の定義と、上の枠の空き 提示枠の上限と、採用側の急ぎ具合
自分で動かせるか 移るかどうかを選べるだけ。中にいて上げることはできない 年単位で動かせる。経験の組み合わせ方で変わる 昇格要件を満たせば動くが、枠の空き待ちになる その場で動く。ただし枠の内側に限られる
効いてくるまで 移った直後から 何年か先 評価と昇格のサイクルを何周か回した後 オファーの時点
失敗したときの戻り方 戻りにくい。下の相場帯へ移ると往復に時間がかかる 戻る心配は小さい。積んだ経験は消えない 転職すればリセットされる 断られて終わる。損失は残らない

自分の年収が思ったより低いと感じたとき、最初に特定するのはどの層で損をしているかです。相場の層で負けているのに等級を上げようと努力しても、天井は動きません。

上げる経路は4つしかなく、それぞれ別のものを賭けている

年収を上げる方法は、4つの層に対応して4つあります。

業界を移るのは、いちばん幅が大きく出る経路です。ただし移った先では業界知識がリセットされ、入社時の等級は下がりやすくなります。相場で上がった分を等級の下がりで食われ、差し引きではほとんど変わらないこともあります。

職種を移るのは、希少性の層を動かす経路です。移った直後は未経験扱いになるため、いったん下がることが多くなります。回収できるかは、前の職種で積んだものを持ち出せるかで決まります。まったく効かない移り方をすると、希少性をゼロに戻して積み直すことになります。なお、移った先の職種で実際に何をするのかは職種ごとに違い、たとえば経営企画とコンサルタントの違いのように、同じ「企画」という言葉でも関わり方が変わります。

現職で等級を上げるのは、転職しない経路です。生活面のリスクがない代わりに、上限が業界相場と自社の等級テーブルで決まっています。2つ上の等級の人の年収がおおよそ見えていて、それでも目標に届かないなら、この経路に答えはありません。

条件を変えずに交渉するのは、同じ業界・同じ職種のまま提示枠の上のほうを取りに行く経路です。リスクも動く幅も小さく、入社後の昇給ペースは等級で決まるため、初回提示だけを上げても数年後の位置は変わりません。

業界を移る 職種を移る 現職で等級を上げる 条件を変えず交渉する
上がる仕組み 人件費の原資が多い側へ移る 供給が少ない業務の側へ移る 同じ会社で担う範囲を広げる 決まっている枠の上のほうを取る
差し引かれるもの 入社時の等級が下がり、相場の差を食う 未経験期間の分だけ一度落ちる 相場と等級テーブルの上限を越えられない 入社後の昇給ペースは変わらない
判断が要る時期 応募先を決める段階 応募先を決める段階 期初の目標設定 オファー面談
うまくいかない典型 高い相場が一時的な条件によるもので、数年後に戻る 前の職種で積んだ希少性まで手放す 上限が見えているのに待ち続ける 現年収を根拠にして枠を越えられない

一度下がった年収が戻る条件と、戻らない条件

転職で年収が下がること自体は、失敗ではありません。問題は、下がったまま戻らない下がり方をしているかどうかです。この2つは、下がった原因がどの層にあるかで分かれます。

回収できるのは、下がった原因が等級のリセットだけである場合です。業界の相場帯は同じかそれ以上、職種の希少性も維持されていて、入社時の等級だけが下がっている状態です。ここなら社内で積み直せば戻りますし、相場の高い側へ移っていたなら元の水準を超えます。

戻りにくいのは、次のような下がり方です。

  • 相場帯そのものを下に移った場合。等級を上げても、その業界の上限にぶつかります
  • 職種の希少性を手放した場合。誰でも担当できる業務の側へ移り、そこで年数だけ重ねると、次の転職でも同じ位置から始まります
  • 役職を降りて、その役職での経験が古くなっていく場合。人を動かした経験は、年数が空くほど説明が難しくなります

判定は、下がった金額を「相場・希少性・等級」のどれが下がった分なのかに割り振って書き出すだけです。等級の欄だけに金額が入るなら回収できる下がり方、相場か希少性の欄に入るなら、回収にはもう一度の移動が要ります。

下げる判断をする場合は、何年で戻らなければ判断を誤ったと見なすかを、下げる前に決めてください。決めずに下げると、下がった水準のほうに生活が合っていき、その判断を検証する機会がなくなります。

求人票の提示年収は金額ではなく構造を読む

提示された金額は、そのままでは現年収と比べられません。中身の作りが会社ごとに違うためです。最低限、次の3つに分解します。

固定残業の有無と、含まれる時間数。 提示額に固定残業代が含まれている場合、その時間まで働いて初めて提示額に届きます。同じ金額でも、含まれているかどうかで時間あたりの金額は変わります。超過分が別途支払われるかもあわせて確認します。

賞与の比率。 提示額のうち賞与の割合が大きいほど、その数字は「業績が想定どおりだった場合」の見込みに近づきます。確認するのは月給に12を掛けた金額です。ここが薄いと、業績が振れたときの下落幅が大きくなります。

等級テーブルがあるか。 等級ごとに金額の範囲が定義されている会社では、入社時の等級が決まった時点で数年先までの見通しが立ちます。定義がない会社では、初回の提示が高くても、その後どう上がるのかを読む材料がありません。面談では金額より「入社時の等級と、その等級の範囲」を聞くほうが情報量があります。

提示レンジの上限の扱いにも注意が要ります。上限は多くの場合、その職種の在籍者の最も高い水準か、それに近い値です。上限を基準に期待値を作ると、実際の提示を受けた時点で交渉が感情的になります。

いまの年収が相場より高いか低いかは求人票の分布で測る

社内の噂話や同期から聞いた金額は、条件がそろっていないため測定には使えません。そろえやすいのは求人票の分布です。

  1. 職種名ではなく、実際にやっている業務の内容で検索します。職種名の指す範囲は会社ごとに違うため、そろえた気になって外します
  2. 業界・企業規模・勤務地の3つをそろえます。混ぜると分布が二つの山に割れ、中央がどこにあるのか分からなくなります
  3. 30件程度を目安に集めます。最初の数件だけで判断すると、掲載順のバイアスがそのまま入ります
  4. 集めた求人の下限値だけを並べます。上限は在籍者の最高値に寄るためばらつきが大きく、下限のほうが「この業務ならここから」という採用側の下値を素直に表します
  5. 自分の現年収が、その下限値の並びのどこに来るかを見ます

現年収が下限の並びより下にあるなら、同じ条件の転職でも上がる余地があります。下限の並びの上のほうにあるなら、同じ業界・同じ職種のままでは上がりません。動かせるのは相場か希少性の層で、どちらも移動を伴います。

限界もあります。求人票の金額は「これから採る人」の値であって、在籍者の実額ではありません。採用を急ぐ職種ほど高く出ます。それでも条件をそろえられる点で、社内で聞ける話より扱いやすい材料です。

なお、自分の経験がどの業務内容に当たるのか曖昧なままでは、この検索は始められません。社内用語は求人票の言葉と噛み合わないためで、その言い換えはキャリアの棚卸しの手順で扱っています。

交渉で動くのは枠の中の位置だけ

交渉というと金額の話に見えますが、先に決まるのは等級です。等級が決まれば枠が決まり、動かせるのはその内側だけになります。順番は「等級 → 金額」で、金額だけを上げに行くと枠の上限で止まります。

根拠の立て方にも差が出ます。現年収を基準にした「いまより何割か上で」という言い方は、低い水準を自分から基準として差し出すことになるため、相場より低い人ほど不利に働きます。使う根拠は、入社後に担う範囲です。求人票の業務のうち、初日から担当できるものと立ち上げに時間が要るものを分けて示せると、金額ではなく等級の議論に入れます。

交渉が通らなかったときにも情報は残ります。「等級で決まっているので難しい」と返るなら、その会社には等級テーブルがあり、入社後の見通しは立てやすくなります。「持ち帰って相談します」で動くなら、枠に裁量があり、入社後も個別の調整で決まりやすくなります。どちらが良いかは、見通しを取るか幅を取るかで変わります。

エージェント型のサービスを介する場合、報酬が決定年収に連動するため上げる方向に力が働きますが、成立させたいという力も同時に働きます。提示を受け入れる基準は、自分の側で先に持っておいてください。サービスの型ごとの違いはコンサル転職サービスの選び方で整理しています。

次にやること

最初に、直近の源泉徴収票と給与明細から、自分の年収を月給に12を掛けた額・賞与・固定残業・各種手当に分解してください。ここが分かれていないと、求人票の提示額と比べる作業自体が成立しません。

次に、4つの層のうちどれで損をしているのかを1つだけ選びます。同時に複数を動かすと、結果が出たときにどれが効いたのか分からなくなり、次の判断に使えません。

相場の測定は、応募活動を始める前に済ませるほうが正確です。応募を始めると、集める求人が「自分が受かりそうな求人」に寄っていき、分布が歪みます。

年収以外の不満が混ざっている場合は、先に切り分けてください。裁量のなさやスキルの陳腐化に対して年収だけを上げても、不満のほうは残ります。転職・副業・学び直しのどれから着手するかで、不満の種類ごとに効く手段を対応させています。