キャリアの選択肢
転職・副業・学び直しのどれから着手すべきかを切り分ける
転職・副業・学び直しは解いている問題が違うため、手段から選ぶと決まりません。報酬・裁量・スキル・人間関係・時間という不満の5類型に手段を対応させ、可逆性の高いものから1つだけ動かす順番を示します。
この記事の前提
- 想定読者
- 現状に不満はあるが、転職・副業・学び直しのどれが自分の問題を解決するのか決められない30〜40代
- 読了後の状態
- 自分の不満の正体に対して、どの手段が効くのかを切り分けられる状態
転職サイトに登録したまま3か月が過ぎ、副業の始め方の記事は何本も読み、講座の説明会は予約したものの行っていない。変えたいという気持ちははっきりしているのに、どれから手をつけるかだけが決まらない、という状態があります。
決まらないのは意志の問題ではありません。3つを同じ列に並べて「どれが一番よいか」を考えているからです。転職・副業・学び直しは「キャリアの選択肢」としてまとめて語られますが、解いている問題が別々です。並べ方が違えば、比べる軸は立ちません。
先に決めるのは手段ではなく、いま何に不満を持っているかのほうです。不満の中身が分かれば、効く手段と、どれだけやっても効かない手段が分かれます。以下では不満を5つに分け、それぞれに3つの手段がどう対応するかを整理します。
三択で止まるのは、3つが別の問題を解く手段だから
転職は環境を丸ごと入れ替えます。仕事の内容、評価する人、報酬の決まり方、一緒に働く相手が一度に変わります。副業は本業を残したまま、収入源と評価者を1つ増やします。学び直しは環境をそのままにして、手持ちの能力の構成だけを変えます。
変える対象が違えば、効き始めるまでの時間も、やめたときに戻る場所も違います。
| 転職 | 副業 | 学び直し | |
|---|---|---|---|
| 入れ替わるもの | 仕事・評価者・報酬・人間関係が同時に変わる | 収入源と評価者が1つ増える。本業側は変わらない | 手持ちの技能の構成。環境は何も変わらない |
| 効き始めるまで | 応募から入社まで数か月、慣れるまでさらに数か月 | 最初の受注までは読めないが、始まれば即座に反応が返る | 最も遠い。業務に接続する場面を作るまで効果が出ない |
| やめたときに戻る場所 | 戻れない。前職には基本的に戻せない | ほぼ元どおり。やめれば本業だけの状態に戻る | 生活は元どおり。使った時間と費用は戻らない |
| 会社との関係 | 在職中の活動は自分の時間で完結する | 就業規則の確認が先に必要になる | 原則不要。費用補助を使う場合のみ申請が要る |
| 失敗したときに残るもの | 職歴に残り、次の応募先から質問される | 続かなかったという事実だけで、本業には波及しにくい | 使わなかった知識は薄れる。損失は時間と費用 |
判断に効くのは3行目です。副業と学び直しは、合わなければ止めれば元の状態に戻ります。転職だけが、決めた時点で前の環境を失います。この差が、あとで着手順を決めるときの基準になります。
不満を5つに分けると、効く手段が決まる
分類の前に、材料を集めます。直近1か月で不満を感じた場面を、日付と状況つきで10件書き出してください。「もう限界」「なんとなく合わない」という書き方では分類できないので、そのとき何が起きたかを場面で書きます。10件集まらない場合、不満は行動を起こすほど強くない可能性があります。
書き出した場面は、だいたい次の5つに収まります。
- 報酬:仕事の中身には不満がないが、金額が見合わない。求人条件を見たときや、同年代と話したあとに強くなる
- 裁量:決めさせてもらえない、決めたあとにひっくり返される、承認の階層が多い
- スキルの陳腐化:社外で通じる技能が増えていない感覚。同じ作業の反復と、社内固有の運用ばかりが増えている状態
- 人間関係:特定の人物か、部署全体の空気。これだけは他の4つと違い、相手側の事情で決まる部分が大きい
- 時間:労働時間、通勤、突発対応で物理的に余裕がない
この5つに対して、3つの手段は次のように効き方が変わります。
| 不満の中身 | 転職 | 副業 | 学び直し |
|---|---|---|---|
| 報酬 | 相場と等級が入れ替わるので直接効く。ただし下がる移り方もある | 総額は増えるが、単価が上がるとは限らない | 単体では効かない。報酬に変わるのは職務が変わったとき |
| 裁量 | 役割の定義が変われば効く。会社の規模や階層数で決まりやすい | 最も速く効く。規模は小さいが、全部を自分で決めることになる | 効かない。知識が増えても決裁の範囲は動かない |
| スキルの陳腐化 | 強制的に更新されるが、移った先の環境しだいで振れ幅が大きい | 効く。納品する以上は使わざるをえないため更新が起きる | 本来はここが本命。ただし使う場所を決めないまま始めると止まる |
| 人間関係 | 相手個人が原因なら効く。構造が原因なら移った先でも再発する | 効かない。本業の関係はそのまま残る | 効かない |
| 時間 | 効く余地がある。労働時間は個人差より会社の構造で決まる | 悪化する。可処分時間をさらに削る | 悪化しやすい。学習時間の確保が新しい負荷になる |
見るべきは「効く」の欄ではなく、空振りする組み合わせのほうです。人間関係と時間の不満に対して、学び直しと副業はほぼ何も返しません。にもかかわらず、この2つは着手のハードルが低いため、実際にはよく選ばれます。
裁量の不満については、決裁権が欲しいのか、進め方を自分で決めたいのかで動かす先が変わります。意思決定への関わり方が職種によってどう違うかは、経営企画とコンサルタントの違いで扱っています。
取り違えが起きやすい3つの組み合わせ
人間関係の不満に転職をあてる。効くこともありますが、原因の切り分けが先です。特定の上司の振る舞いが原因なら、異動や担当替えでも解決します。一方、評価制度の設計や、業界の商習慣、常に人手が足りない体制が原因なら、同業他社に移っても同じ状況が再現します。切り分けの手がかりは2つあります。他部署でも同じ不満が出ているか、そして過去の職場でも似た状況が起きていたか。どちらも当てはまるなら、環境ではなく構造を疑ってください。
時間の不満に副業をあてる。時間が足りないという不満に対して、副業は総可処分時間をさらに減らします。「収入が増えれば納得できる」という組み立ては成立しますが、それは時間の不満を報酬の不満に読み替えたということです。読み替えた自覚があるなら問題ありませんが、無自覚だと数か月後に稼働だけが増えた状態になります。
報酬の不満に学び直しをあてる。学習が報酬に変わるのは、職務・等級・取引条件のどれかが動いたときだけです。学んだこと自体に値段は付きません。年収がどの要素で決まっているかの分解は30代で年収を上げる転職と下げる転職で扱っているので、報酬が主たる不満なら先にそちらで構造を確認したほうが早く進みます。
3つ同時に始めると、何が効いたのかが分からなくなる
同時着手が失敗しやすいのは、時間が足りなくなるからだけではありません。効果が測れなくなるからです。
3か月後に状況が良くなったとします。転職活動で市場を見たからなのか、副業で外の評価に触れたからなのか、学習で手応えが出たからなのかを区別できません。区別できなければ、次にどれを続けるかも決められません。悪化した場合はさらに厄介で、原因が特定できないまま全部を止めることになります。
時間の奪い合いも一方向に働きます。副業には納期があり、転職活動には面接の日程があります。学習には締切がないため、最初に削られるのは必ず学習です。3つを並行して数か月経つと、学習だけが手つかずで残り、着手前より状態が悪くなったように感じます。
例外は、どの手段を選んでも必要になる準備工程です。自分の経験を社外向けに整理する作業は3つすべての土台になるので、これだけは並行して構いません。手順はキャリアの棚卸しは何から始めるかにまとめてあります。
着手順は可逆性の高いものから決める
どれか1つに絞ると決めたあと、順番を決める基準は「やめたときに元へ戻るまでのコスト」です。時間・お金・人間関係の3つで測ります。
- 情報を集める、経験を書き出す:戻すコストはゼロ。ここを飛ばして次に進む人が多い
- 社内で動かせるかを試す:異動希望、担当替えの相談、社内公募への応募。断られても現状に戻るだけで、失うものはほぼない
- 小さい単位の学び直し:短い期間で終わるもの、費用のコミットが小さいもの。終了条件を先に決める
- 小規模な副業:就業規則を確認したうえで、単発か短期のものから。継続契約は後回しにする
- 転職活動:応募と面接までは可逆です。不可逆になるのは内定を承諾した時点で、それ以前は情報収集に近い
注意点が1つあります。可逆性は手段の種類ではなく、契約条件で決まります。長い期間と大きな費用をまとめて先払いする学び直しは、応募して辞退できる転職活動より不可逆です。契約前に確認するのは受講期間・解約条件・費用の3点で、これは何を学ぶかの選定とは別に見ます。
学び直しが先送りの手段になっていないかを確かめる
学び直しは、着手したという実感が得られるわりに、外に対して何も起きません。この性質のため、決断を先に延ばす手段として選ばれることがあります。次の4つで見分けられます。
- 学んだ結果を最初に見せる相手が決まっているか。応募先でも、社内の上長でも、副業の発注元でも構いませんが、決まっていないなら出口がありません
- 終了条件があるか。「ひととおり分かるまで」は終わりません。修了、資格の受験日、提出する成果物のいずれかで終わりを定義します
- 学ぶ内容が、書き出した不満の類型に対応しているか。人間関係が最多だった人が技術を学び始めていたら、対応していません
- 学び始めてから、応募や社内での打診を止めていないか。止まっているなら、学習が延期の理由として機能しています
「準備ができてから」「もう少し自信がついたら」という言い方が出たときは、その準備の中身を書き出してください。書けないなら、それは基準ではなく感覚です。対処としては、学び始める前に外へ出すものを1つ決めます。応募でなくて構いません。求人票を10件読んで要件を書き出す、社内の募集に手を挙げる、といった単位で十分です。
資格を選んだ場合も同じで、取得そのものより取得後の使い道の設計で差が出ます。資格が効く場面と効かない場面の切り分けは中小企業診断士を取得した後のキャリアで具体的に扱っています。
最初の90日で何を動かすか
1〜2週目:不満を感じた場面を10件書き出します。記録は事後にまとめず、その日のうちに書きます。あとから思い出すと、印象の強い出来事だけが残って頻度が歪みます。
3週目:10件を5類型に振り分け、最も件数が多いものを1つ選びます。同数で並んだ場合は、直近1週間に起きたほうを選びます。
4週目以降:選んだ類型に効く手段のうち、可逆性が高いものを1つだけ始めます。並行してよいのは経験の書き出しだけです。
90日後:判定に使うのは収入でも肩書きでもなく、不満の記録の件数です。3か月では他の指標はまだ動きません。件数が減っていれば方向は合っています。変わらないか増えている場合は、手段を替える前に類型の判定を疑ってください。取り違えは手段側ではなく判定側で起きています。
よくある詰まりどころ
不満が複数の類型にまたがる
すべてに効く手段はないので、件数の多い順に1つ選びます。ただし報酬と裁量は、職務が変わると同時に動くことがあります。この2つが上位に並んだ場合は、まとめて扱って構いません。
副業が禁止されている
就業規則の確認が最初です。全面禁止なのか、競業・機密・勤務時間に関する制限なのかで結論が変わります。全面禁止なら副業は候補から外し、同じ効果を社内で得られないかを考えます。担当外の案件に手を挙げる、部署をまたぐ役割を取りにいく、といった動き方は、裁量とスキルの両方に効きます。
時間が取れず、学習が数か月止まっている
学習が進まないのではなく、時間の不満が本命だった可能性があります。順番としては、学び直しより先に労働時間の構造のほうを扱います。
どれもやってみたが、状況が変わらなかった
手段ではなく判定の問題です。不満の記録を取らずに選ぶと、そのときに目についた手段を選ぶことになり、毎回同じ結果になります。記録から始め直してください。
40代で、いまから動くのは遅いのではないか
可逆性で順番を決める考え方は変わりません。変わるのは、不可逆な手段を試すまでの猶予です。2番目の「社内で動かせるかを試す」を省略せず、そこで得た反応を判断材料にしてから、転職に進むかを決めます。